起業したきっかけは何ですか?

橋本 亮汰橋本塗装職人として、この業界に入った時から独立したいと考えていました。

「独立時期はいつだろう」と考えながら勤めていて、「そろそろいけるんじゃないか」と感じた時に、勤め先の社長に相談したところ応援してくれたのがきっかけです。
その時、とりあえず初めは1人で突っ走ろうと考えていました。

あと、実家が町工場で「働くとは、自分自身で何かをやること」だと思い込んでいて。
サラリーマンという形式で働くという考えがありませんでした。その上、人とのコミュニケーションが苦手で下手で。

吉泉お話ししていて、コミュニケーションが苦手という感じはしませんが。

橋本 亮汰橋本今は、たくさんの人と接する間に鍛えられて、ちょっとだけ話せるようになったのですが、本当に人とのコミュニケーションは苦手で。。会社に勤めていた当時は、仲間や先輩とぶつかることも多かったです。

でも、コミュニケーションが苦手という自覚はあったので「仕事だけは負けない。実力だけはつけてやる」という気持ちで働いていました。
実際に先輩たちよりも結果は出せていたのですが、会社として考えると1人で突っ走るタイプの良くない社員でした。

そういう経緯もあって、早く1人でやりたいと考えて独立しました。

吉泉独立されたのは2014年、24歳くらいですよね。独立後は、実際にさまざまな業務も1人でやられていたのですか?

橋本 亮汰橋本当時は個人事業主として、基本的には1人でやっていました。
状況によっては当時の仕事仲間や職人さんに手伝ってもらっていて、多い時は8人くらいかき集めることもありました。

パッと見どちらかと言えばコミュニケーション得意系の人っぽいですが。

起業するに当たって一番苦労したことは?

橋本 亮汰橋本コミュニケーションですね。

独立する時は、周りの人と揉めたりとか、人とのしがらみが嫌だと思って1人で始めました。
でも結局、独立した後の方が人の助けが必要で。1人の力では何もできないということに気がつきました。
「1人だけでやっていける」という大きな考え違いをしていたことが分かり、モチベーションも気持ちも落ちてしまいましたね。

その時に「周りに助けてくれる人がいないといけない」と気づいて、コミュニケーションを上手に取れるようにしようと意識し始めました。

吉泉実際に独立してからの人間関係で困ったエピソードを教えてもらえますか?

橋本 亮汰橋本裏切られたことですね(苦笑)
会社の資材を持って行かれてしまったり、週末に「月曜からは出勤できない」と急に連絡が来たり…。しょうがないですよね。

吉泉そんなにひどいことがあったのに、しょうがないと割り切れるなんて心が広いですね(笑)
僕ならしばらく人間不信になってしまいそうです。

橋本 亮汰橋本心が広いわけではないですが、例え怒鳴って怒ったとしても人は戻って来ないですし、怒ることに疲れてしまうくらいなら諦めようと思っていました。

それに、人間不信にもなりましたよ。
「もういいや」って自暴自棄になったり「やめようかな」って考えたことも数えきれないくらいありました。
本気でやめようと考えていたタイミングもあります。

吉泉それは独立早々の時期ですか?

橋本 亮汰橋本いえ、独立からは2〜3年経ってからです。
独立当初は、がむしゃらに働いていたので。

吉泉その辛い時期を乗り越えられたきっかけは?

橋本 亮汰橋本5年くらい前に、今でも一緒に働いている職人2人が入ってきてくれて、その人たちが信頼できる人たちだったので気持ちが安定してきました。
それまでは「1人でやるぞ」という気持ちでしたが、今のメンバーが入って「1人でやることではないな」と思い始めました。

吉泉信頼できる仲間ができたのですね。
信頼関係はどうやって築きましたか?

橋本 亮汰橋本実は2人ともなかなかヤンチャな人たちで(苦笑)
始めはとっても苦労しました。
でも、その人たちのことは全然嫌いじゃなくて。何かやらかしてしまうのも、悪気は全くなくて、ただ知らないことが原因でした。

なので「もうちょっと、こうした方がいいんじゃない?」と伝えれば真剣に聞いてくれました。
「言うべきことは言ってくれ」という雰囲気を出してくれるから、僕も言いやすかったです。

吉泉素直な方達ですね。その方達はもともと職人さんですか?

橋本 亮汰橋本いえ、全くの素人でした。

吉泉未経験の方だったのですね。採用に至った経緯を教えてもらえますか?

橋本 亮汰橋本1人は無職になったタイミングで「バイトをさせてほしい」と来てくれて、そのままずっと働いてくれています。

もう1人は、元々の友人で、仕事の状況とかを以前から話していたのですが、ある日、当時サラリーマンだった彼が「一緒に働きたい」と言い出しました。
家庭もあり子供もいる状態で、未知の業界に転職することになるので、「しっかり家族と話し合って」とか「やめた方がいいんじゃない?」とか、何度も会って話しました。
それでも働きたいと言ってくれたので、最終的には「じゃあ一緒にやろう」と。

吉泉なぜ、その方はそんなに熱意を持って「一緒に働きたい」と考えていたのでしょうか?

橋本 亮汰橋本友達同士で一緒に仕事をしてみたいと考えていたようです。

ただ、僕の考えでは「友達同士」では仕事はできないので、「一緒に働くようになったら友達という感覚はなくなってしまうと思うよ」と正直に伝えました。
それでも彼は、「休みの日や仕事が終わった後に会えば、その時くらいは友達同士に戻れるでしょう?」と。

吉泉健気な彼女みたいですね(笑)
その方にも是非一度インタビューしてみたいです。

社長になってから一番嬉しかったことは?

橋本 亮汰橋本お客様と直接お話できること、です。

今は戸建住宅の外装の塗り替えをメイン業務としているのですが、独立したことでお客様との直接のやりとりができるようになりました。
お客様から直接「ありがとう」と言ってもらえると、大変なことがあっても吹っ飛んでしまうくらい嬉しいですね。
中には「10年経ったら、また頼むね」と言ってくださる方もいて、本当に嬉しいです。

吉泉コミュニケーションが苦手とおっしゃってましたが、お客様とのコミュニケーションは苦労されなかったのですか?

橋本 亮汰橋本めちゃくちゃ苦労しました(笑)

もう全然言葉が出てこなくて。
友達との会話も下手な状態だったので、コミュニケーションについては必死に練習しましたね。

吉泉どのような練習をされたのですか?

橋本 亮汰橋本営業職のロールプレイを行なったり、コミュニケーションの本を山ほど読んだり。あとは、実践です。
毎日、お客様のところに営業に行っていました。

吉泉そうやっているうちに話せるようになったのですね。

橋本 亮汰橋本いや、今でも話せている自覚はないです。
お客様と話した後、帰りの車内で「あの時の、あの言葉はイマイチだったな」とか自己反省してしまいます。
多分、お客様は気になってはいないのでしょうが、自分は気になってしまって。

吉泉このインタビューについても、帰り道で反省しますか?

橋本 亮汰橋本絶対しますね。「もう一回、やり直せないかな」とか(笑)

今回のインタビューの反省点はどこだったのか、非常に気になるところです。

社長として一番大切にしていることは?

橋本 亮汰橋本難しいですね…。2つでもいいですか?

吉泉もちろんです。

橋本 亮汰橋本「ぶれない心」と「向上心」を大切にしています。

「ぶれない心」については、細かい経営方針なんかは時代に合わせて変わっていくのは当然ですが、根本となる志はぶれずに貫きたいです。

住宅リフォームの中で、塗装関係はトラブルが多く、嫌な思いをしている方々が多くいます。
塗装工事は目に見えるものを新品に交換するのとは違い、目に見えない部分にこそ手をかけることが重要です。

仕上がり具合は、見えない部分の下地塗りが8割、仕上げが2割で決まります。
その目には見えない部分の大切さを、お客様に丁寧に伝えたいと考えています。

そうすることで、塗装工事のトラブルで不快な思いをするお客様を減らしたいですし、「塗装工事はトラブルが多い」というマイナスイメージを払拭していきたいです。

また、家がきれいになって、耐久性が上がって、安心して住める、というような塗装工事をしたことで得られる満足感、幸福感も伝えていきたいと考えています。

吉泉なるほど。目に見えないからこそ、きちんと伝えることが大切ですね。
他にもぶれずに持ち続けたい志はありますか?

橋本 亮汰橋本できるだけ、近くに住んでいるお客様とお仕事をさせていただきたいと思っています。

と言うのも、「塗装工事をして終わり」ではなく、何年か後に家の状態を見に行ったり、近所で偶然お会いして「どうですか?」と状況を聞けたりするような関係を大切にしたくて。
塗装を通じて1人でも多くの人を笑顔にしたい、という気持ちを持ち続けたいです。

そのためには、お金儲けに走ることよりも、細々とでもいいから100年続く会社を目指しています。

吉泉素晴らしいビジョンですね。
では、もう一つの「向上心」についてはいかがでしょうか。

橋本 亮汰橋本もし、自分が勤めている会社の社長が、「向上心」がなかったり考え方や大事にしている信条がぶれていたら「付いていって大丈夫かな?」と心配になるじゃないですか。僕はそう思うんですよね。

なので、まず僕が「向上心」を持って取り組む姿を見せて、他の職人たちを引っ張っていきたいと思っています。

今後のビジョン、目標

橋本 亮汰橋本会社の規模を大きくしたいと考えていて、10人前後まで増やすのが理想です。

吉泉なぜ、10人なのですか?

橋本 亮汰橋本利益率の関係です。
1人がトップとして運営していくなら、10人前後が利益率のピークで、20人くらいになると利益率がガクンと落ちます。

吉泉現在、橋本さんを含めて3人ですが、あと7人をどのように集めようか考えていることはありますか?

橋本 亮汰橋本うーん…ご縁ですかね(笑)
もちろん、こちらからも採用に関するアクションはかけますが、周りの人が働きたくなる会社にしたいです。

吉泉周りの人が働きたくなる会社ですか。
目指すべき会社の姿というのはありますか?

橋本 亮汰橋本お客様が安心して依頼してくれる会社を目指しています。

現実的に、1人が複数の案件を同時に掛け持つことはできません。
会社の理想の人数が決まっているということは、対応可能な案件数も必然的に決まってきます。

無理に多くの案件数を対応しようとして手抜き工事をすることは、僕は許せません。
細々とでもいいから、きっちり仕事をしたいと考えています。

吉泉考え方によっては、人数を増やして、案件数も増やして、経費もできるだけ下げて、というお金の儲け方もできますよね。

橋本 亮汰橋本そのような手抜き工事をすることは可能です。
お客様が見ても何回塗ってあるかはわからないし、1回塗りでも塗り方がきれいだったら僕が見てもわからないと思います。

それでも、手抜きをするのではなく、真面目に仕事をして、お客様に安心してもらうことが大切です。

吉泉一件一件のお客様を大切にしようと思い始めたのはいつ頃からですか?

橋本 亮汰橋本独立してからですね。

お客様から直接、感謝の言葉をもらえるようになった時に嬉しくて。

職人としての修行時代は、下請けの仕事ばかりで、お客様と話をするのはハウスメーカーの営業さんだけでした。
職人は作業をして終わり次第すぐに帰ります。言い方は悪いですが「駒」のような感じです。
塗り終わった後の、きれいになった家を間近で見ることすらありませんでしたね。

でも今は、全部の作業が終わった後、改めてお客様にご挨拶へ伺っています。
その時に、お客様と一緒に家を眺めたりするのは本当に楽しい時間です。

そんな橋本社長は、お客様が悪質な業者に騙されない為の本を執筆しています。塗装を検討中の方は是非一読を

社長になりたい若者へメッセージ

橋本 亮汰橋本社長になんて、すぐになれます。

20万円くらいのお金を用意して、書類を提出すれば、すぐに株式会社の社長になれるんです。
しかも、バイトみたいに面接も受けなくていい。

でも、仕事としてやっていくのであれば最低限の熱意は必要です。

社長になれば、うまくいくことばかりではありません。
辛い時や、やめてしまおうかと考えた時に「あと少しがんばろう」と耐えられるかどうかは、仕事への熱意があるかどうかだと思います。

吉泉先ほどおっしゃっていた、本気でやめたいと考えていたタイミングで続けられたのも熱意があったからですか?

橋本 亮汰橋本そうですね。

「塗装」が好きで、自分にはこれしかないという気持ちが強くありました。
「やめたとして、他に何ができる?」と考えると、熱意を持って挑めるものが他になくて。

吉泉熱意を持つことも保ち続けることも難しいことですよね。

橋本 亮汰橋本はい。
でも、新しいことを学ぶ時は熱意がないと進みませんし、本当にやってやるという気持ちがあれば、どんなに忙しくて時間がなくても「1日30分だけは必ず勉強しよう」と考えて頑張れます。

吉泉熱意がエネルギーの根源ですね。僕も引き続き仕事に熱意を持って頑張ります。